人的資本開示の最新トレンド:アメリカ編①(SECによる人的資本開示の義務化)
こんにちは!HCプロデュースの土井です。
今回は、当社クライアントから問い合わせの多い"海外の最新事情"についてお伝えしたいと思います。
海外編第1弾は「アメリカ」です!
すでにご存じの方も多いと思いますが、アメリカでは、2017年に、全米自動車労組(UAW)医療保険基金やカリフォルニア州職員の退職年金基金(カルパース)が、同国証券取引委員会(SEC)に対して労働生産性や従業員のスキル、安全性等を数値化して開示させることを提案したことを切っ掛けに、人的資本の開示に関する動きが加速しておりました。
そのような潮流下、昨年(2020年8月26日)、ついに、そのSECが、同国上場企業に対して、所定のSECレポート(「10-K」という年度別報告書)上での人的資本開示を義務化するという大きな動きがありました。
これにより、アメリカの上場企業(NYSE上場中の日系11社も!)の対応が急務となった一方で、開示プロセスに関するSEC側のインストラクション(図①)が極めて曖昧だったことも重なり、各社混乱に陥ったことは記憶に新しいところです。
上述の"極めて曖昧だった"という点は、具体的には以下の3つが挙げられます。
- 人的資本としてSECから明確に言及があった項目は「採用」・「育成」・「リテンション」のみであること
- 上述の3指標も含めて、各人的資本の重要性(マテリアリティ)は、SECではなく、自社で判断して、開示是非を判断する必要があること
- SECからは、拠り所となるフレームワークが明示されておらず、開示にあたる表現方法も自社で検討する必要があること
【図①:SEC通知原文(出所:SEC Release No. 33-10825 Modernization of Regulation S-K Items 101, 103 & 105)及び当社意訳】
当社の最新調査によると、アメリカの上場企業では、従前より、自社のESG/サステイナブルレポート等で人的資本の開示を積極的に進めていた企業と、そうでない企業で二分化されておりましたが、前者の企業では、既存の人的資本データをSECレポートに適切に落とし込むことで、比較的スムーズな対応に取ることができたようです。また、そういった企業では、SECレポート上で"既存レポートも参照"するように併記する手法も良く見られました。
SECルールの効力が発行した2020年11月9 日以降にSECへ20年度のレポートを行った米上場企業の売上額上位300社は、19年度版と比較し、人的資本に関する記述が拡充もしくは追加されており、当社独自の調査によれば、平均すると、ルール化前の人的資本に関する記述は270単語であったのに対し、ルール化後は820単語と3 倍に増えておりました。
拡充された項目としては、以前から求められていた「従業員数」に加え、「ダイバーシティ」、「組織風土」、「安全・健康・幸福」、「スキルと能力」、「後継者計画」等に関する記述が多いようです。
図②のスターバックス社の例を見ると、その差が一目瞭然ですよね!
【図②:スターバックス社の2019年 vs 2020年度発行のSECレポート比較例(出所:同社10-Kレポート)】
本日のブログはここまでですが、アメリカのトップ企業の個別動向にご関心がある方は、別途、お問い合わせください!先進的な取り組みをいくつか紹介できると思います。
また、直近のアメリカ政府の動きについては、別途、記事を掲載したいと思います!お楽しみに!
HCプロデュース/土井